オストモダンの造本と印刷製本のこと

制作話

オストモダンの仕様は、高い帯と露出した表紙、かつての東側諸国を感じさせるラフな質感の本文用紙となっています。メトロタシケント、メトロリスボンのシリーズにつながるシリーズとして、中島基文(なかしまもとふみ)さんに造本設計・デザインをしていただきました。

いずれも表紙をめくると裏に4色(カラー)印刷が施されている、ちょっと贅沢な気持ちになるデザインです。中島さんは帯のそで(折り返したところ)が裏面と重なったときにバランスがよいかどうか見て、写真を決定してくださっています。最初に出版したメトロタシケントの仕様を決めるとき、表紙裏にこんなふうに写真を入れて4色印刷にしては?という提案がありました(メトロタシケントは帯が特色1色なのですが、表紙は裏表4色なのです)。私だったら選ばないであろう写真だったので、意外で、そして面白く感じました。私はどうしても文脈で選んでしまいがちなところを、デザイナーさんが別の視点で選んだり、コラージュしてくれたりしたとき、とてもわくわくします。そういう余地をどれだけ作れるかは、発注者と受注者の信頼関係にかかっているように思います。

今回のオストモダンは、表紙の2色印刷部分が中島さんセレクト。いずれもイスクラさんも好きな写真を2色に分解して大胆に使ってもらっています。2巻で完結することはわかっていたので、1・2のタイトル数字の色として単色でも映えて、かつイメージの違う色を選んでくれましたが、もとの写真とは異なる雰囲気を受け入れてくれる著者のイスクラさんにも感謝です。

表紙の用紙も一般的なコート紙ではなく、少し質感のある紙なので、繊維が比較的ラフで、製本でどうしても繊維剥けが発生してしまうという意外な盲点がありました。並製の本では、よく見ると他社の本でも剥けは発生しているのですが、オストモダンは濃い色で全面印刷をしているので、剥けると白が目立ちます。少しでも剥けを減らすため、印刷会社さんたちと相談して、2では微妙に紙を変更しました。また、製本の工程でも、断ち落とす前の余白を多めにしておいたり、三方断裁の向きを90度変えたり、という工夫をしていただきました。普段はしない並製本の立ち合いに行って、工場の並製本と言われてイメージしていた何倍も人の手がかかっていることに驚きました。

印刷・製本・デザインのいろんな人とリスクを考えて、そのリスクを回避する工夫をして校了までこぎつけたのですが、今回は、表紙の印刷がうまくいかず1週間ほど発売が遅れてしまいました。裏面4色+ニスを印刷したのち、乾いてから特色2色+ニスを印刷、さらに乾いてから製本所に発送されるのと、製本のラインが混雑している時期だったので、日数がかかってしまいました。お待ちいただいている読者さんや、ゴールデンウィーク前に展開しようという書店さんの思いに肩透かしをくらわせてしまって申し訳ない思いです。私が今回のことから得た教訓は、「校了のときも大切にしていることはしっかり書いておく」ということ。表紙の色校正は、元請の色校正機で印刷されており、実際に本機で印刷するのは、別の厚紙の印刷会社さんになります。そのため、色校正がちゃんと出ているから「OK」しか書かないと、判断が分かれるようなものの場合は現場の人に伝わらない場合もありうるのでした。これまでデザイナーの方が、OKだった色校正紙に「この色の濃さキープ」とか書き込んでいるのを見ていたのに。そのデザイナーさんたちはかつて今回の私のような経験があったのかもしれない、とハッとしました。

●使用した用紙と仕様
『オストモダン1 東ドイツ』
表紙 ミルトGAスピリット(表特色2色+ニス/裏4色+ニス)
帯  ミューコートネオス(4色+マットPP)
本文 b7バルキー(4色)

『オストモダン2 東ヨーロッパ』
表紙 NEWウルトラ(表特色2色+ニス/裏4色+ニス)
帯  ミューコートネオス(4色+マットPP)
本文 b7バルキー(4色)