フクモ陶器こじらせ考察 その3

制作話

以下は、謎の集団「フクモ陶器研究」研究会(以下フクモ研研)メンバーによるこじらせ考察である。書き手はフクモ陶器に隠されたメッセージを勝手に読み解こうとしているが、着地点を見失って現在筆者自身も行方不明。以下は、研究室のパソコンに残されていた未完のテキストである。内容の真偽は読者諸君の判断にまかせるしかないので、フクモ陶器公式研究書『無用的芸術 フクモ陶器』を片手に読み進めてほしい。

フクモ陶器用語解説(未完)
フクモ陶器に取り上げられているモチーフの解説を試みた野心的なテキスト。ところどころ強い思い込みからくる見当違いも見受けられる。最後はフクモ陶器の背景にある膨大な背景に心が折れたらしく、ときおり集中力の欠如が見られる。


【あな】:くぼみ、または向こう側に通じるもの。器にとってあってはならないものだが、フクモ陶器では、「通過系」(p.20) 、ゴム栓シリーズ(p.77〜79) などに見られる。

ちなみに、“けつ”と呼ぶ場合は、中医学でいう全身にある治療点である経穴(けいけつ)、いわゆるツボを意味する。鍼などで刺激すると体内の臓と反応したりするが、「ツボハンド」(p.80)のツボを押したらどこが反応するかはまだ解明されていない。

体にある穴 参考:類経図翼(1624年・張介賓)

【いん】:「印壺(いんこ)」(pp.34-37)で見られる手と指で作られる形。いわゆる厨二病の初期症状でよく見られる。フクモ陶器では仏教の印相が使われ、無用陶器なのにありがたさを感じさせる。

智拳印を結ぶ大日如来坐像(東京国立博物館


唐子【からこ】:中国風スタイルの童子。一般的な芸術作品では複数で遊んでいる姿が描写されることが多い。フクモ陶器では、次元の境界をブランコで行ったり来たりする「ビヨンド鉢」(p.46)、天地開闢を表した「宇宙卵」(p.39)などで楽しげな姿を見ることができるが、「マルチバース五彩」(p.70)の唐子は、どの世界線でも先生に叱られていてかわいそう。


【くも】:フクモ陶器の柄に頻出するモチーフ。「くも」の文字が入っているので、フクモ陶器そのものを象徴しているのかもしれない。仙人の乗り物のイメージは西遊記の影響が大きく、実際は龍や鶴などにも乗っている。仏教で雲は煩悩の意味もあるが、基本的には雲文は吉祥文様である。


【ご】:正方形の台の上で白と黒の石を用いて遊ぶ卓上ゲーム。発祥は紀元前と言われる。故事のなかで仙人が遊んでいるのはたいてい碁である。別称の爛柯(らんか)は、斧の柄(柯)が朽ちる(爛)の故事から時間を忘れるほど夢中になる意味で、「北斗星君」「南斗星君」(p.144)も碁遊びに熱中している伝説もある。

その形態は天は円、地は正方形という古代中国の宇宙観、天円地方であり、冥土の土産物「天地開闢囲碁」(p.139)は、陰陽が交わって世界が生まれる様子を表す。

ゲームといえば碁(爛柯

【つぼ】:壺は内部が空洞になっている容れ物で、ふたは有ったり無かったりする。空洞ゆえに中に別世界が存在すると信じられている。中国の故事「壺中天(こちゅうてん)」で仙郷とつながっていた壺は瓢箪のことである。

ツボ:→穴。フクモ陶器では、「星人間」(p.144)のように独自のツボが存在している。

【は】:口に入れた食物などを噛む器官。生き物だけではなく陶器にもその存在が確認されたのが「カミカミ壺」(p.38)、「カミカミ丼」(pp.40〜41)である。

歯の噛み合わせには、左が「打天鐘(だてんしょう)」、右が「槌天磬(ついてんけい)」、中央は「鳴天鼓(めいてんこ)」という呼称がある。夜道を歩く時に槌天磬を鳴らすと魔物が近づかないとされる。それぞれ願い事をしたり神様を集めたりする時に使い分けるが、カミカミ壺は360度歯があるため方向を気にしなくてよいので便利である。


【ひげ】 :仙人の長いひげは長寿の証であり、長く培われた知恵の象徴でもある。実際に童顔だと舐められるので髭を生やすという話もあるので、フクモ陶器のおじさんたちも意外と若いのかもしれない。

武将【ぶしょう】:十谷焼の茶碗などに日本の戦国武将や将軍などが見られる。茶文化の大きく発展させた武将は、陶器と切っても切れない関係である。

なかでも茶人としても有名な古田織部は、千利休の弟子でありつつも、師とはちがった独創的なスタイルで、「織部焼」を生産し独自の茶文化を発展させた。

織部焼からは南蛮文化の影響が見られる。

織部南蛮人燭台(サントリー美術館)

【ほし】:フクモ陶器の柄で、点と点を直線でつないで星っぽく見えるのは古代中国の天文学による「星官」であり、ギリシア天文学を元にした現代の「星座」とは違ったものである。

北極星は北辰と呼ばれ、不動であり天でいちばん位が高い。天体の動きを司っている神様である。

「北斗星君」「南斗星君」(p.144)はそれぞれの星座が神格化されたもの。南斗は生、北斗は死を司る。

→碁(ご)

盆栽【ぼんさい:盆栽は、植物だけを愛でる「鉢植え」と区別して、その鉢を含めた姿を愛玩する文化である。フクモ陶器のフューチャー盆栽(pp.98〜101)では、ウェラブルだったり、植物の部分も陶器だったりなど新しい盆栽の形が提案されている。

盆栽は器の中の小宇宙である (Gloubik Sciences)

土産物【みやげもの】:近世日本では神社仏閣への参詣した「証」で、門前や参道で売られていた「名物」が「みやげ」となった。フクモ陶器は、冥土や龍宮、厠など、お土産ラインナップが少ない場所でのビジネスチャンスを狙っている。


【もも】:古代より魔物を除ける力があるとされる。とてもおいしい。ちなみに「桃鏡」(p.142)は桃源郷ではなく厠のおみやげである。


【やま】:地上をで最も天に近い場所であるため、古代から聖なる場所とされた。道教では、不老不死を達成した「仙人」は見晴らしの良い山に棲む。逆に目先のことしか見えない場所=谷に棲んでいるのが「俗人」である。

また死者の魂が天に昇るために集う場所でもあるため、フクモ陶器では「山どんぶり」「山の盛り合わせ」「山小皿」が冥土の土産とされている。

想像上の山:古代インドや仏教に出てくる「須弥山」や古代中国の伝説上の山「蓬莱」などはフクモ陶器でもおなじみである。

須弥山は、仏教の想像上の山で高さ16万由旬(=126万キロメートル)。冥土の土産として出てくる「須弥山鍋」も、実際に鍋として使われる場合は原寸大なのであろう。フクモ陶器ではミニチュア版が制作されている(「須弥山鍋」p.142) 。

海中の博山を模した香炉「博山炉」(河北博物院

UMA【ゆーま】:オカルトは現代人のたしなみである。1980年代のオカルトブームでは未確認生物やUFOや心霊写真、占いなど各メディアで取り上げられ、人々はうさんくさいとわかっていながらもワクワクしたのである。フクモ陶器は、そういった世代がひっかかるモチーフを巧みに織り込み、かつての「うさんくさくて意味不明なのにワクワクする」気持ちを呼び起こす装置にもなっている。

昔のひとも不思議なものが大好き (wiki 虚舟

[未完]

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参考文献:
『道教の世界』創元社ライブラリー
『須弥山と極楽』定方 晟
『かたちの誕生』杉浦康平
『日本の庭園』田中正大
『風水|中国人のトポス』三浦國雄
『道教百話』窪徳忠
『中国医学の誕生』加納喜光
『桃源郷の機械学』武田雅哉
『宗教とデザイン』松田行正
『囲碁の民話学』大室幹雄
『盆栽文化史』岩佐亮二
『盆栽の宇宙誌』ロルフ・スタン
『捜神記』東洋文庫