藤本健太郎 vs 松村大輔「まちのよきかな十番勝負」Round 7

Round 6 のつづき

IMG_0342

ふじもと
ちょっと『ゼルダの伝説』のルピー(通貨単位)のような魅力があって、ラグジュアリーを感じた「ば」。
まつむら
 ホントすみません。ちゃんとひらがなしばりで採取してきてもらってしまい……。
ふじもと
僕なんかもう20ネタ、オールひらがなですよ!?
まつむら
えええっと(笑)。ごめんなさい。
ふじもと
楽しかったです(笑) この「ば」もまた、全景がいいんだ〜

IMG_0359

まつむら
神々の立喰そば……。(ルピーに引っ張られすぎている)
ふじもと
民藝調ムードもありつつ、水晶っぽさもありつつ。「立」がいいですよね。ちょっとさっきの話にも出て来た「立山」とか、「剣菱」みたいなものを感じる*(編注:まちのよきかな十番勝負 Round5 より)
まつむら
水晶だ!! でも骨格がやさしいからうまそうです
ふじもと
 s_000m

a0066081_1729636

まつむら
ジオメトリカルの仲間*(編注:こちらも Round5 より)が戻ってきた(笑)!
ふじもと
さらにもう一歩引きますと……

IMG_0377

ふじもと
たまらない魅力が。
まつむら
まだ営業してるんですね! これ、ぼくは見逃すタイプかも……。
ふじもと
ささ、次どうぞ

mg1

ふじもと
カッターの刃みたい。
まつむら
自分は「和菓子のようじ」に見えました(笑)

mg2

ふじもと
あ! この「ち」! 好きなタイプだなぁ〜〜〜
まつむら
ひらがなの「おもちゃ」を無視して漢字の「形」。ひらがなイケよって話ですが、漢字に惹かれてしまいました。
ふじもと
この角をひとつ欠けさせるのも、図案文字によくある手法ですよね。
まつむら
そうなんですね。カイゼルハムしかり。同類の図案文字が辿った進化の系譜を俯瞰してみたいものです。
ふじもと
いまパッと画像検索してみてたんですがいい例が出てきませんでした(笑) では、次。

IMG_0335

ふじもと
もうなんとも形容しがたい「ぐ」。
まつむら
これ! Round1「むさしや」の家族?!
ふじもと
宇宙から来たなにかみたいです。

IMG_0381

まつむら
人智の及ばないレベル。フレームありきなんですかね。濁点の打ち場所がなかったのか。でも、いいなー
ふじもと
よくみると「じ」と「ぐ」の雰囲気が合ってますよねー。ちょっと大航海時代の日本地図みたいな趣きがありませんか。長崎だけ妙に情報の精度高いやつ(笑)
まつむら
言われるとね。もうその関連づけに惚れ惚れしちゃう。「じぱんぐ」の屋号からして、歴史的風格が欲しかったんでしょうか
ふじもと
さて次いきましょう(笑)(巻きにかかってる)

mo1

ふじもと
ガスボンベ由来か!
まつむら
これはイベント当日にも見せましたよね。

mo2

ふじもと
日本でステンシルが安定して楽しめる数少ない場所……それが駐車場とガスボンベ。
まつむら
これまたローカルボンベのジャンルがありそうなので、今後「酸」の字を中心に集めていこうと思っています。「ふるさとのステンシル」とでも申しましょうか。台湾のステンシルも相当よかったですよね(『タイポさんぽ 台湾をゆく』参照)
ふじもと
「酸クラスタ」誕生フラグか……。
まつむら
集まるかどうかは分かりませんが(笑)

IMG_0355

ふじもと
素朴なゆ。「ゆ」ってやっぱりかわいいですね。ほっとしますね。
まつむら
「こ」「ゆ」「よ」は僕の中の〝三大可愛いカタチの平仮名〟かも。

IMG_0347

ふじもと
脳内でやっぱり「湯」とか「癒」に繋がるなぁ〜
まつむら
「癒着」の「癒」でもありますがw スナックかー。目移りしちゃう。。
ふじもと
右上、「ニュースマイル」さんの劇画感もヤバかった。劇画感というか名画感(笑)
まつむら
この類いのタイポを見るとぼくは必ずヒッチコックの「裏窓」を思い出すんです。

51jape0p46l

ふじもと
あああああ(笑)
まつむら
なんでしょね。ぜんぜん違うのに。引力かな。ハライの引力。
ふじもと
あとやっぱりエマニエル夫人(笑)

images

まつむら
ですよね〜
ふじもと
映画レタリングの系譜ですよね〜。飲み屋街ではときどきあることですが、ここはほんと、一網打尽感ありましたね。シャッター一押しでどぱーんとタイポ大漁旗。
まつむら
結構久しぶりに『エマニエル夫人』の邦タイトルを見ましたが、やさしい雰囲気ですね。京都・誠光社さんの八画文化会館さんとのトークイベント(*2016/8/27)では、スナック看板群の話もしようと思ってるんですよ。さて、いよいよラスト2枚!

mh1

まつむら
イベントでお目にかけたので、もう何の字だかバレていますが……

mh2

まつむら
カタカナの「ミ」でした。配色も相まって、遠目には文字に見えませんでした。一見したところ工事関係のサインかと勘違いしますよね(笑)

ふじもと
これ一番すごかったですね、やっぱり。
まつむら
修悦さん的テープ文字なんでしょうけど、角度のせいですかね。45°を越えたところの。
ふじもと
「バイド」ってなんだ、って話になりましたが。SF系シューティングゲームの銀河の彼方から侵略してきた異星生命体みたいなワードですが。「培土」ではないかという、「アイデア」編集長・室賀さんのご意見。
まつむら
「さく引」もさくいんではなく「さくびき」なんでしたっけね。
ふじもと
ハサミや砥石などと考えると、これもしかして庭師の方向けのプロショップ……? 庭師っていうか農家さんかなぁ。
まつむら
看板の主は、農具・包丁の「やす」さんでした!
ふじもと
やっぱりそう言うことかー! ほんと謎めいて見えますね(笑)
まつむら
 %e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-07-31-13-14-29
ふじもと
たまらない。
まつむら
あー出し切った! ではでは、次をおねがいします。

IMG_0334

ふじもと
さっきの「おもちゃ」の「ち」に似てますが。
まつむら
ANIさん(編注:藤本さんのこと)が作る『まちの文字図鑑 よきかなひらがな』も見てみたくなる!! パースが効いててかっこいいな。

IMG_0396

↑クリックで拡大されます

ふじもと
すっごい小さいですこれ(笑)
まつむら
ちっさ! でもすごい!!!
ふじもと
みのがせませんでした(笑)
まつむら
ああーーー好き〜〜〜♡
ふじもと
民藝の系譜ですよね〜これもねー
まつむら
「み」も「中」もいいけど「ち」をピックアップするあたり……。そのわりに「浜っ子」は細く仕上がってますね。なんでや。
ふじもと
うどんそばの自販機に近い魅力ですよね。
まつむら
右上がりの「っ」もそれだけを見てみると相当良いかも。
ふじもと
嗚呼、この失われつつある昭和の民藝系文字のいとおしさ。継承したいこのフォルム……!
まつむら
ついつい〝デジタルフォントの功罪〟などと考えてしまいますが。
ふじもと
民藝系レタリング、むかしの商店建築の資料本めくってるとホント多いんですよね。でも時代は流れて今や勘亭流とかヒゲ文字ばっかになっちゃって
まつむら
需要はあるはずなのにな。民藝系。いよいよラスト一文字ずつ!

mr0

まつむら
水海道駅の駅名標。到着時には気づかなかったのですが、ベンチに座って裏側から駅名標を見上げてみると……。

mr2

まつむら
両サイドに駅前キャバレーの広告が残されていたんです!
ふじもと
うわあまさかの裏面ロイヤルで来た!!

mr1

まつむら
最後までカタカナで恐縮です。
ふじもと
おもて面の駅名表示、「みつかいどう」の「つ」と「う」の書きだしがちょっと曲がってるの、好きだなぁ。ここらへんの文字はもじ鉄クラスタに分析・解説をおまかせしたいところですが(笑)「みつかいどう」と「きたみつかいどう」では「か」の棒の膨らみが逆になってるのもこれまた味わい。
まつむら

mr4

mr5

いまでもJR東海などで使われている〝スミ丸ゴシック〟とも違う丸ゴシック。「ロイヤル」に戻ると、当駅の「当」五画目が突きだしてて、そんなところからよき時代を感じました。駅名標は先日の能町さん・西村さんとのイベントでも取り上げましたが、みなさんお好きなようですし、こんな書籍も出るくらいです。

saredo

中西あきこ『されど鉄道文字—駅名標から広がる世界』(鉄道ジャーナル社)

……普通に駅名からひらがなをすくった方がよかったですね。

ふじもと
気になってるんですよ〜! この本! 買っても積んじゃいそうで手を出せてないんですが……。(なんせ、自分の守備範囲である商店ファサード文字系の超大型資料もじっくり目をとおせてないまま積み状態)では僕のラストいきます。ラストだからといってラスボス感溢れるアレじゃあないんですが。

IMG_0382

まつむら
ち、中ボス感 !!
ふじもと
今回の函館〜室蘭遠征では、フリースタイルで、奇妙な形のひらがなに目がいきましたね。いままで結構スルーしてたタイプだった。

IMG_0401

ふじもと
「え」の点、そこにカスレの穴ができる力学がよくわからない(笑) でも好きですね〜。室蘭はほんとに、いい飲み屋看板の多い駅前でございました。
まつむら
ベースラインを越えたレイアウトのリズムもあり、スナック感満点です!
ふじもと
で、これ実はちょっとおもしろいのがカッティングシートを切ってるラインが残ってて。

IMG_0331

まつむら
刃の痕ですか?
ふじもと
〝エコダ〟(Round6参照)とはまた違った切れ込みの妙があります。
まつむら
こんな「余計に切っちゃった部分」からエコダがはじまるきっかけにもなりそうな気もします。
ふじもと
ああ! それはあるかも……! 縮みのきっかけ。どこかにきっかけがないとスッとしたライン上からはヒビ割れが生じづらいですからね。
まつむら
ひろってくれてありがとうございます!
ふじもと
まとめにはいりますけども、今回、国内の行ったことない町に、タイポ取材だけのために泊まりがけ行く!というのは自分にとっては初めてで、ずーっとやってみたかったことなんですよこれは。
まつむら
ええ。
ふじもと
しかも6時間半も運転してですよ。
まつむら
きっかけとなったのであれば、よかったです!
ふじもと
ちょっと「ひとり水曜どうでしょう」めいた楽しさがありましたね。やるのかよほんとに!?みたいな。そして、得られたものは、一文字にフォーカスして見ていくという、自分にとって新しい視点。

この見方のおかげで、今までスルーしがちだったさまざまな文字にも目がいくようになったし、これまで歩いてきた路上でどんだけ「単品で見るほどにいかす形」のひらがなをスルーしてきたのかという思いに苛まれます(笑)

今回の取材で出会ったものたちは、『タイポさんぽ』で紹介した文字たちと、かなりの違いがあって、ドキッとさせられましたね。

まつむら
まあ。ほんとその繰り返しだなと思ってます。「機」に焦点をあてて街を歩く小学生なんてなかなかいないと思いますし。(近い子はいた!)でも新しい視点を獲得してもらえたなんて、うれしすぎます! 最近で言うと、ANIさんが提唱してくれた「#のれんの味自慢」によって、暖簾を丁寧に見るようになりましたし。そもそも路上文字観察の地平は『タイポさんぽ』やその先人達が〝さく引〟……いや切り拓いてくれたおかげで、自分を含めたたくさんの人の町の文字を見る視点が変わってきたと思います。

イベントに引き続き、完全版の収録・校正までお付き合いくださりありがとうございました!!

ふじもと
当日、現場にお越しいただいた皆様にも、この掲載で読んでいただいた方にも、感謝です!
まつむら
ありがとうございました! 藤本さん、またやりましょう!
だいふく
今回は、藤本健太郎さんと松村大輔さんに、それぞれ知らない街をめぐって、『タイポさんぽ』を1文字切り出しの『よきかなひらがな』スタイルでという、コラボを実現していただきました。お二人のかけあいが楽しく、気づきの多い路上観察対談でしたね。茨城県の取手・水海道、北海道の函館・室蘭については、まちの有益な情報にもなりますし、しっかりとした路上観察地図ができそうです。なにはともあれ、長丁場で濃い対談、どうもありがとうございました。最後まで十番勝負を見守ってくださったみなさん、ありがとうございます!

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする