藤本健太郎 vs 松村大輔「まちのよきかな十番勝負」Round 4

Round 3のつづき

まつむら
ではさっそく! さわやかな一枚から。

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まつむら
1匹+1文字です。
ふじもと
プレイボーイにしてはずいぶんと純なうさぎ(笑)。耳が切れてるので、それでもちょっとオルタナティヴなうさぎなんでしょうか。若干『ジュエルペット』っぽくもある…って「プ」ですよね、「プ」。
まつむら
本家の絵は諸事情により見せられませんが……「プ」

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まつむら
かなり本家に近い……というか、そのまま!?
ふじもと
こっれ、ほとんど雑誌の『プレイボーイ』日本版のロゴまんまですね(笑)少々、伝言ゲーム中の電気抵抗で情報が失われていますが…
まつむら
タイトルロゴはそのまんまなのに、ウサギは……誰? という案件でした。
ふじもと
こういう、伝言ゲームの過程でとか、臨書の過程で情報量が失われていった姿って、やはりおもしろいです。
まつむら
雑誌名をそのまま店名にしちゃう例も少なくないですよね。とくにスナック。
ふじもと
日本で使われてる漢字の中にも、言ってみれば中国から伝来する途中で情報量が失われたり、フォルムが屈折して解釈されたりしたようなものもありますよね。ロシアのキリル文字の、「アルファベットを伝える書物を積んだ船が難破して、なんとか記憶で伝えたからああなった」みたいなジョークを思い出してしまいます(笑)
まつむら

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ふじもと
ボ、似てそで似てない(笑)オーダースーツのエフワンさんのロゴにも似てますね、「フ」。

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まつむら
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ふじもと
似てますねぇなんだか(笑)70年代くらいにちょっとしたブームがあったのかな…これ系カタカナレタリングの。
まつむら
いや、思ってたより似てませんでした(笑)
ふじもと
いや、わかんないですよ……? こういう可能性もありますし。img_8021
まつむら
出た!! 仲間ですね。親方。
ふじもと
なんとなく、〝紳士〟にまつわるロゴに、この手法属があてがわれている、というのは興味深くないですか。ウイスキーにスーツに男性向け教養雑誌。これは要調査かもしれないです。僕も今日いまこの細い糸をつかんだ気分。

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まつむら
アサカメは相当近いです!
ふじもと
同族だ!!
まつむら
そう!! よく思い出しましたね……すげ……。この号、持ってます(笑) 「ハイ!マリー」。
ふじもと
1926年、『アサヒカメラ』の創刊号がこちら。2016030100322_1
まつむら
はじめて見たー。もうはじまってますね。
ふじもと
1926って大正でいうと15年。昭和元年。
まつむら
昭和初期のモダンな明朝の流れが太みを帯びていったのかしら。源流に近そうです。「ラメカヒサア」。
ふじもと
大正〜昭和初期の、図案文字集がたくさん出ていた頃のものだ……。
まつむら
あー、図案文字集かー、あとで探してみますよ。面白いけどここ膨らみすぎ!!
ふじもと
ここらへんは書体大博士の目に留まったら「おいお前らここ座れ」って叱られそうなので次行きましょう。
まつむら
ハイ、お願いします。

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まつむら
「たて」合字みたい。

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ふじもと
でも並ぶとたって読めますね。続く「かはし」の力で「たて」性がねじふせられた。一文字で切り出さないかぎり「たて」の合字には見えづらいというおもしろい例。
まつむら
面白みのないことを言いますと、立体文字看板になると画数をおさえるのが基本なんでしょうかね。今回、本を作ってよくわかりましたよ。でも、これは違うかー。
ふじもと
あー! 立体看板文字の画数おさえ……。あるかもしれないですね。剥落リスクも減りますもんね。「#連綿タイポ」誕生の謎ももしかしたらそこらへんにあるのかもしれないですよ…!?
まつむら
剥落リスクと連綿タイポの関係……ありえますねー。おもしろい。
ふじもと
まあ上の「ヘアー&メイク」の剥落っぷり見てると、「何やっても落ちるもんは落ちるんだよコノヤロウ」って文字から突っ込まれそうな気分になりますけどね…
まつむら
笑)素材の制約で「しゃーなしにこうなった」文字たちは不憫でいじらしく……すきです!
ふじもと
字パーツは剥落しても接着していた接着剤や、その文字があったところの痕跡で、なんとなく読めちゃう例、っていうのも路上タイポ観察の1ジャンルとしてありますよね。
まつむら
先日Twitterでも話題に上がってましたね。『タイポさんぽ』でも語られてるかな。
ふじもと
手書き文字の専門家、井原奈津子さんとやりとりしていて突発的に生まれた言葉 「#ポ痕」。タイポの痕跡(笑)
ふじもと
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これは台湾の高雄でみかけたものです。剥落しちゃったんじゃなくて、改装のためにはがしたものっぽいですが(笑)たぶん中国語ネイティヴの方なら僕らよりいくらかは読めるんじゃないかと思います(笑)

まつむら

そう#ポ痕! しかしこれはいくら目を細めても読めない!! ここで続けて剥落文字を出したいところなんですが、今回の取材分にはないです(笑)

ふじもと
またもすごい脱線をしてしまった。
まつむら
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da2_nodocaこわれ参考資料

ふじもと
すごい!「ダ」のこわれが……。剝がれてキュッ!と、もともとの直線状態に還ってる!!
まつむら
フレームだけが形を変えながら残ってた例。特殊すぎますね。お店が現役なのがうれしかったので。長野の辰野という街でみました。
ふじもと
もともとは「ウスダ」の三文字、ソリッドな文字が張りついていたんだけど、剝がれてダメになっちゃって
まつむら
ほう。
ふじもと
店主が壁に残った痕跡をたよりに細い材を曲げて貼ったんじゃないかなぁ(笑)ちょっとこれ、お店の方に経緯をお聞きしたいですね。
まつむら
そっかー。「ウ」と「ス」の変形具合がおかしいですもんね。すごい推察!

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まつむら
この「クスリ」、一見、普通っぽいんですが

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まつむら
動いてる!?

ふじもと
これはなんか、ボクシングの選手がこう、トレーニングでババババっと殴るやつ(笑)両手でバババババって。ああいう動きを感じさせますね
まつむら
サンドバッグの小さいやつ!(編注:パンチングボール)全文字に施されていたらまだ意味がわかるんだけど、「ス」だけっていうのが。

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正面も同じでした。

ふじもと
トリがぴょんと飛んでるんだ(笑)Kの字。
まつむら
ね、そっちは「国鳥」の「鳥」と思われるんだけど。
ふじもと
もしかしてこのトリつきのKが最初にあって、「クスリ」って書くことになった看板屋さんが「ど、どこかにこの躍動感をとりいれなくては…仕事として成立しないんだ…」と使命感を燃やしたのか…!?
まつむら
であれば、もうちとハデにいって欲しかったなー(笑)真意が知りたくなりますね。
ふじもと
インライン3本いれるならどう考えても「ス」の払いに入れますよね(笑)
まつむら
細かいなー
ふじもと
クだってリだって、左下払いで同じフォルムなので、遊び様はいろいろあったのになぜかスの点!!!
まつむら
な、なるほど
ふじもと
常人にはとてもまねできない、そこに痺れる憧れる案件ですよこれは…

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ふじもと
すいませんものすごい普通で(笑)いやこの字、すごい綺麗だな〜と思ったんですよね〜。
まつむら
オーソドックス! でもいいな〜。
ふじもと
非の打ち所のないバランス感。まったくスキがない。全体見るとさらに感動しますよ。

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まつむら
いいですね〜〜〜(山本晋也)
ふじもと
「かなもの はうす」のゴチックも最高にいい味出てますし「か」が微妙に半剥落案件だったりしますが。「おおしま」の字影のパーフェクト感!
まつむら
「お」の三画目の点と同じ大きさのものを大胆に「し」にも使うあたりもいいです。
ふじもと
とくにぎゃはははっという面白さも、「なん…だ…と…!?」という奇想天外感も全然ないんですけど、ただただ「よきかな」としか言えない系ですよね。これは採取せずにはいられず、向かいのコンビニの駐車場に車停めて雨ん中撮りました(笑)
まつむら
雨の中「よきかな」のタイポと向き合う藤本さん……素敵♥

Round 5へつづく!

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